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東京地方裁判所 昭和46年(特わ)1472号 判決

主文

被告人両名を各罰金三万円に処する。

被告人両名が右各罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、昭和四六年五月二八日、東京都千代田区所在の日比谷公園において開催された日本労働組合総評議会青年対策部および東京地評青年協議会共催の「沖繩返還協定調印阻止反戦反安保青年労働者中央総決起集会」の終了後、同公園霞門より霞が関一丁目、霞が関二丁目、大蔵省上、三年町、特許庁角、虎の門の各交差点を経て西新橋交差点にいたる道路上において行なわれた集団示威運動に参加し、東京水道労働組合、東京都教職員労働組合、東京都交通労働組合、東京都職員労働組合などの組合員ら約二五〇名からなる第一梯団に加わつていたものであるが、右の組合員らが、同日午後八時二一分頃から午後九時五分頃までの間、東京都公安委員会の付した許可条件に違反して、霞門より霞が関一丁目交差点にいたる道路上においてはその道路巾ほぼいつぱいに、同交差点より霞が関二丁目交差点にいたる道路上においてはグリーンベルトではさまれた中央道路巾いつぱいに、同交差点より大蔵省上交差点にいたる道路上においては順行車線の巾いつぱいに、同交差点より三年町交差点に向けて約二七〇メートル弱の道路上においては順行車線の巾いつぱいに、同交差点より特許庁角交差点にいたる道路上においてはその道路巾ほぼいつぱいに、同交差点より虎の門交差点にいたる道路上のうち、東京倶楽部ビル東端までは、時には中央線を越えることもあつたが、おおむね順行車線の巾いつぱいに、文部省角あたりから同交差点までは順行車線の巾いつぱいに、続いて同交差点より西新橋交差点附近にいたる道路上においては順行車線の巾いつぱいに、だ行進をなした際、ほか数名の者と共謀のうえ、右第一梯団の先頭列外に位置し、被告人森が、ほぼ終始トランジスターメガホンを使用して「沖繩解放」「調印阻止」のシュプレヒコールの音頭をとるなどし、被告人足立が、ほぼ終始笛を吹いて音頭をとり、時には右梯団の先頭隊伍が横に構えた竹竿を握つて引張るなどして、右だ行進を指揮誘導し、もつて前記許可条件に違反して行なわれた集団示威運動を指導したものである。

(証拠の標目)〈略〉

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人の主張の骨子は次のとおりである。

(一)  (条例と法律との牴触)本件公訴事実は、「被告人らは、東京都公安委員会が公安条例三条一項但書三号に基づき、交通秩序維持に関する事項として付した許可条件のうち、だ行進等交通秩序をみだす行為をしないことに違反した集団示威運動を指導した」というにあり、右が同条例五条に該当するというのである。しかし、公安条例三条一項但書三号の規定は、道路交通法七七条の規定に牴触するから、地方自治法一四条に違反し、ひいては憲法九四条の条例制定権の範囲を超える立法として形式的効力を有せず、したがつて、その罰則である公安条例五条の規定も違憲違法といわなければならず、それらを罰条とする本件は可罰の根拠を欠き、無罪とされなければならない。

(二)  (構成要件不充足)仮りに、公安条例が合憲であるとしても、それが表現の自由を刑罰をもつて制限していることにかんがみ、必要最少限度に限定的に解釈すべきであるから、本件公訴事実におけるだ行進についても、単にだ行進を行なつただけでは構成要件を充足せず、当該だ行進によつて、一般車輛・歩行者に対し、暴行・脅迫・殺傷・損壊の不測の事故をおこす具体的危険が発生したことを要すると解すべきである。しかるに、本件におけるだ行進は、証拠上、右のような具体的危険が発生していたとは認められないから、犯罪の構成要件を充足していない。

(三)  (可罰的違法性の欠如)また、仮りに、公安条例が合憲であるとしても、刑事罰をもつてのぞむに足る集団行動は、公共の安寧を侵害するような態様もしくは方法をもつてなされるか、あるいは公共の安寧に対する直接かつ明白な危険が存在する場合に限定されるところ、本件におけるだ行進は、証拠上、具体的な交通阻害を生ぜしめず、公共の安寧に対する直接かつ明白な危険があつたものともいえないから、可罰的違法性を欠くとしなければならない。

二、そこで、まず、右一の(一)(条例と法律との牴触)の主張について判断する。

(1)  集会、集団行進あるいは集団示威運動を含めて一般に集団行動は、民主主義社会において、一定の主張を一般大衆に直接に訴え、その共感をうる効果的な手段であり、いわゆる表現の自由を認めた憲法二一条によつて保障されていることはいうまでもない。しかし、それが道路・公園等の公共の場所において行なわれるときは、これらの場所を一時的にせよ占拠することになるのであるから、これを利用しようとする他の一般公衆の利益と衝突をきたすことは必然のことであり、あるいは、それが行なわれる道路・公園等に隣接する地域住民の生活の静ひつにもかかわり合いをもつにいたるから、その相互の利益を較量し、その間の調整をはかる必要が生ずることも多言を要せずして明らかである。また、平穏静粛な集団であつても、時に興奮・激昂の渦中に巻きこまれ、勢の赴くところ実力によつて法と秩序を蹂躪するにいたる可能性を包蔵していないわけではないから、その規制の必要な場合もありうるであろう。これらの観点から、公安条例三条一項但書は、一号から六号までにおいて、事項を指定した上、集団行動に対し公安委員会が条件を付しうることを認めているのである。そのうち、三号が交通秩序維持に関する事項であり、これに基づいて東京都公安委員会が本集団示威運動につき、「だ行進等交通秩序をみだす行為をしないこと」の条件を付しているのである。

(2)  ところで、交通秩序の維持に関しては、それはいうまでもなく道路における危険を防止し、交通の安全と円滑をはかるためであるところ、その基本法としては、国の法律である道路交通法があり、同法七七条一項四号は、「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者」は、当該行為にかかる場所を管轄する警察署長の許可を受けなければならないと規定し、これに基づいて、東京都公安委員会は、東京都道路交通規則一四条(昭和三五年公安委員会規則第九号、当時施行のもの。なお、現行は昭和四六年公安委員会規則第九号一八条)により、「道路における街頭行進」を警察署長の許可を要する行為の一つとして定めているのである。したがつて、東京都においては、道路において街頭行進を含む集団示威運動をしようとする者は、右の各規定に準拠して、所轄警察署長の許可を受けなければならない。また、道路交通法七七条三項は、所轄警察署長が右の許可をするにあたつて、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することを認めているのである。してみると、本件のごとく、道路における集団示威運動につき、「だ行進等交通秩序をみだす行為をしないこと」の条件は、国の基本法である道路交通法七七条三項によつても、これを付することが可能である。したがつて、国の基本法たる道路交通法と地方公共団体の自主立法たる公安条例との矛盾牴触の有無が検討されなければならない。

(3)  そこで、憲法九四条は、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」とし、これを受けて、地方自治法一四条一項は、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる」と規定する。東京都公安条例は、右の憲法および地方自治法の規定に基づき、地方自治法二条二項、三項一号の「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する」ための、いわゆる行政事務条例として制定されたものであるから、国の基本法たる法律と牴触することの許されないことはいうまでもない。条例が法律に牴触するか否かは、規制の対象が同一であるか否か、および規制の趣旨・目的が同一か否かによつて判断するのが相当である。よつて、以下に、公安条例と道路交通法との関係についても、右の両者を検討することによつて、牴触の有無を本件に即して考えてみよう。

(4)  まず、規制の対象についてみるに、公安条例の表現にしたがえば「道路における集団示威運動」であり、道路交通法の表現によれば「道路における街頭行進」であるが、それはおおむね形態を同じくする行為として、規制の対象は同一であるというを妨げない。本件のごときだ行進禁止の許可条件が、条例によつても、また、法律によつても、これを付しうることに徴してもこの点は明らかであろう。もつとも、規制の対象となる行為形態は同一であるとしても、許可条件に違反した場合に、罰則の適用を受ける者の範囲については、両者の間に異同がある。すなわち、公安条例五条によれば、条件違反の行為の主催者、指導者および煽動者が処罰の対象となるに対し、道路交通法一一九条一項一三号によれば、許可条件に違反した行為者自体が処罰の対象となるのである。しかしながら、道路交通法違反の罪についても、共謀共同正犯、教唆犯および幇助犯の規定の適用があると解すべきであるから、仮りに公安条例五条における主催者、指導者および煽動者が、自ら許可条件違反の実行行為に直接加功していないとしも、右の共犯規定によつて処罰されることが多いであろう。まして、本件においては、被告人らは許可条件に違反して行なわれただ行進にみずから参加し、かつ指導したものであるから、罰則の適用においても、規制の対象は同一であるといわなければならない。

(5)  次に、規制の趣旨・目的の異同についてみるに、本件において、だ行進禁止の許可条件が付されたのは、公安条例三条一項但書三号「交通秩序維持に関する事項」に基づくところ、交通秩序維持とは、いうまでもなく、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑をはかることに帰するから、この点において、同一の趣旨・目的を掲げる道路交通法とそれを同じくするかのごとくみえないではない。しかし、道路交通法が、もつぱら道路における危険防止および交通の安全・円滑をその目的とするに対し、公安条例における規制の趣旨・目的はこれのみにとどまるものではない。前述のように、集団示威運動は、憲法二一条にいわゆる表現の自由によつて保障されているとはいえ、それは他の一般公衆あるいは地域住民の利益と牴触することが必然的に予想されるのであり、その相互の利益を較量し、その間の調整をはかる必要から、公安条例は集団示威運動にある限度の規制をすべきことを許容しているのである。換言すれば、公安条例は、民主主義社会において集団示威運動が十分に尊重されるべきことを勘案しながら、他方これによつてそこなわれる他の住民の利益と較量し、その間の調整をはかり、もつて公共の安寧を保持すべきことをその趣旨・目的としているものであつて、たんに道路の秩序維持のみをはかる道路交通法とは、おのずからその趣旨・目的を異にするものといわなければならない。この点は、公安条例三条一項但書が、たんに「交通秩序維持に関する事項」をかかげるにとどまらず、「官公庁の事務の妨害防止に関する事項」「危害防止に関する事項」「集団示威運動の秩序保持に関する事項」「夜間の静ひつ保持に関する事項」等を掲記し、これらの諸点を地方の実情にあわせて綜合的に勘案し、許可条件を決定すべきものとしていることに徴しても明らかであり、また、実際に本件においては、「交通秩序維持に関する事項」のほか、「危害防止に関する事項として、「①鉄棒、こん棒、角材、石その他危険な物件を携帯しないこと。②兇器として使用し得るような角材、こん棒等を旗ざお、プラカード等の柄に用いないこと。③旗ざお、プラカードの柄などに危険な装置を施さないこと。」の条件を付し、あるいは、秩序保持に関する事項として、「解散地では到着順にすみやかに流れ解散をすること。」の条件が付されたのである。

(6) かように、公安条例と道路交通法とは、規制の対象が同一である場合があるとしても、規制の趣旨・目的を異にするから、その間に牴触は存しないと解すべきであるが、この点はさらに次のことによつても明らかであろう。すなわち、道路交通法七七条一項四号は、道路における集団示威運動のごとき街頭行進を規制すべきか否かは、法律自体によつては定めず、これを各地の実情に応じて公安委員会が定めることとしているところ、これに基づいて東京都公安委員会が街頭行進をその規制の対象としていることは前述したが、さらに、道路交通法の施行規則である昭和三五年総理府令第六〇号道路交通法施行規則一〇条三項が、「法第七十七条第一項第四号に掲げる行為については当該都道府県の条例(市町村の条例を含む。)により公安委員会に届出をし、又は許可を受けなければならないこととされている場合において、その届出書又は許可の申請書に第一項に定める事項が記載されているときは、前項の規定にかかわらず、当該届出書又は許可の申請書を法第七十八条第一項の申請書とみなす」旨を、また、同条四項が、「法第七十七条第一項第四号に掲げる行為について当該都道府県の条例(市町村の条例を含む。)により公安委員会の許可を受けなければならないこととされている場合において、その許可書に別記様式第六に定める事項が記載されており、かつ、所轄警察署長が許可の旨及び付すべき条件をあわせて記載したときは、第二項の規定にかかわらず、当該許可書を法第七十八条第三項の許可証とみなす」旨を規定している点に留意しなければならない。右は総理府令とはいえ、道路交通法の施行規則であり、施行規則の立言は、基本法たる道路交通法の趣旨を推測させる一つの資料とはなりうるものと解すべきところ、右の総理府令によれば、道路交通法は、道路における集団示威運動のごとき街頭行進が、基本法たる道路交通法によつて規制されるほか、地方公共団体の条例によつて規制されることのありうることを当然に予想し、そのための申請事務および許可手続の重複化をさけるため、同一の申請書と許可証とによることとして、手続の簡易化をはかつているのであつて、この点に徴すれば、道路交通法は、街頭行進と形態を同じくする道路における集団示威運動について、道路における危険防止および交通の安全・円滑をはかるため、道路交通法およびその委任による公安委員会規則によつてこれを規制するとともに、地方公共団体が、各地方の実情にかんがみ、かつ、公共の安寧を保持するという綜合的な視野と観点から、条例によつてこれを規制することを許容しているものと解せられるのである。したがつて、公安条例は道路交通法と牴触しないのみならず、むしろ、道路交通法は同一の規制対象につき、異なる規制の目的から、条例がこれを規制すべきことを容認していると解すべきであるから、本件公安条例は、憲法、地方自治法に違背するところはなく、有効に存続するものとしなければならない。

(7) しかしながら、さらに検討を加えるに、本件公訴事実は、前記のように、「被告人らは、東京都公安委員会が、公安条例三条一項但書三号に基づき、交通秩序維持に関する事項として付した許可条件のうち、だ行進等交通秩序をみだす行為をしないことに違反した集団示威運動を指導した」というにすぎない。本件集団示威運動に付された許可条件は、前述のように交通秩序に関する事項のみならず、危害防止に関する事項および秩序保持に関する事項についても、それぞれ条件が付されていたのであるが、被告人らが現実に違反したのは、右の諸条件のうち交通秩序維持に関する事項のみであつたのである。かような場合においては、具体的事案に即して、あらためて道路交通法と公安条例との牴触が問いなおされなければならない。何故なら、交通秩序維持のみに関していえば、それは結局において道路における危険を防止し、交通の安全と円滑をはかることに帰するから、規制の対象と目的とを同一にする場合がありうるからである。もつとも、交通秩序維持に関する事項のみについてみても、公安条例所定のそれは、公共の安寧をはかるという、綜合的視野に立つ、より高度の立法目的に出るものであるから、道路交通法のそれと軽重の差があるべきことは、おのずから推測されるのである。しかし、この軽重の差は、観念的には窺いえても、現実にその間に一線を画することは困難な場合が多い。例えば、本件のごとく、だ行進禁止の条件は、道路交通法によつてのみ付しうるものであるか、あるいは、公安条例によつてのみ付しうるものであるか、これを条文の文言によつて決することはできないのであるから、結局いずれによつても付しうると解するのほかはないであろう。してみると、本件のごとき事案に即していえば、道路交通法と公安条例とはその規制の対象と趣旨・目的とが、結局において同一に帰すると解すべきである。しかるに、その規制違反の罰則は、道路交通法一一九条一項一三号において、三月以下の懲役または三万円以下の罰金であり、公安条例五条において、一年以下の懲役・禁錮または五万円以下の罰金であるから、後者が格段に重いのである。本来、道路交通法によつて規制が可能な街頭行進つき、公共の安寧をはかる目的から公安条例によつて規制することは、前述のごとく許されるとしても、その罰則の適用については、具体的事案の本件のごとく交通秩序維持に関する事項にかかる条件違反のみに帰する場合においては、道路交通法は、同法所定の法定刑を超えて公安条例の罰則を適用することを容認していない趣旨であると解すべきである。したがつて、本件事案においては、被告人らを道路交通法所定の法定刑(懲役三月または罰金三万円。なお、公安条例所定の禁錮刑は、刑種が異なるから、その選択は許されないと解する。)を超えて処断することは許されないものであつて、弁護人の主張は、右に述べた限度で理由がある。

三、次に、右一の(二)(構成要件不充足)の主張について判断する。

所論は、公安条例のいわゆる条件違反罪について、これを具体的危険犯と解し、証拠上、本件だ行進が具体的危険を発生せしめたとは認められないから、構成要件を充足していないというのである。しかし、公安条例三条一項但書各号の条件は、集会、集団行進または集団示威運動が、公共の安寧に直接危険を及ぼすことがないように、かかる危険を防止するに足る条件を類型的に想定し、右の条件の遵守を集団行動を行なう者に義務づけるものであつて、右の条件違反の集団行動の指導者等に刑事罰を課する公安条例五条の構成要件は、条件違反の集団行動を指導することによつて充足され、その集団行動が具体的に公共の危険を生ぜしめることを要しないと解するのが相当である。これを具体的危険犯とする見解は、道路交通法のいわゆる条件違反罪との区別を強調し、これとの矛盾を避けて両者の独立した存在意義を認めうる点において長所があり、また、これを具体的危険犯と解することによつて、集団行動の憲法二一条による保障を重からしめる点においても傾聴すべき見解ではあるが、しかし、条文の文言上かく解すべき根拠は十分でなく、また、実質的にも、集団行動の自由の保障に手厚い反面において、これによつてそこなわれる一般公衆の利益を軽視する結果をきたし、さらに、公共の安寧に具体的危険を生ぜしめる犯罪とすれば、他の刑法所定の同一類型の犯罪と対比して、その法定刑が軽きにすぎるかのごとくみえる点等を勘案するときは、これを具体的危険犯と解することは相当でなく、抽象的危険犯と解すべきである。したがつて、これを具体的危険犯とし、証拠上、本件だ行進が具体的危険を発生せしめていなから構成要件を充足せしめていないとする所論は、その前提を欠き、採用することができない。

四、最後に、右一の(三)(可罰的違法性の欠如)の主張について判断する。

公安条例のいわゆる条件違反罪が、具体的危険犯ではなく、抽象的危険犯と解すべきことは、既に述べたところである。ところで、本件事案についてみるに、被告人らの所為は、前認定のごとく、日比谷公園霞門から西新橋交差点にいたる道路上においてなされた集団示威運動に際し、許可条件に違反して行なわれただ行進を指導したというものであるところ、右のだ行進は、右の集団示威運動のほぼ全コースにわたつて行なわれ、かつ、被告人らのこれに対する指導も同じくだ行進の最初から間断なくなされたものであつて、いわゆる条件違反罪の典型的な形態と認められるのである。したがつて、被告人らの所為が可罰的違法性を欠く旨の所論は採用しがたい。

(法令の適用)被告人両名の判示各所為は、刑法六〇条、昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行集及び集団示威運動に関する条例五条、三条一項但書三号に該当するが、本件事案においては、右の法定刑は、前記弁護人の主張に対する判断二の理由により懲役三月または罰金三万円を超えて処断することは許されないと解すべきであるから、所定刑中罰金刑を選択し、右金額の範囲内で被告人両名を各罰金三万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により、全部被告人両名は連帯して負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(船田三雄 杉山伸顕 井深泰夫)

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